大判例

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東京地方裁判所 平成5年(ワ)14651号 判決

原告

柴重一

右訴訟代理人弁護士

小島延夫

被告

朝日生命保険相互会社

右代表者代表取締役

若原泰之

被告

大里勢津子

右両名訴訟代理人弁護士

茅根煕和

春原誠

被告

株式会社富士銀行

右代表者代表取締役

橋本徹

被告

瀬間博一

右両名訴訟代理人弁護士

海老原元彦

廣田寿徳

半場秀

田子真也

主文

一  被告朝日生命保険相互会社及び被告大里勢津子は、原告に対し、各自金四一七万一一八〇円及びこれに対する平成五年八月一〇日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告朝日生命保険相互会社及び被告大里勢津子に対するその余の請求並びに被告株式会社富士銀行及び被告瀬間博一に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の一〇分の一並びに被告朝日生命保険相互会社及び被告大里勢津子に生じた費用の五分の一を被告朝日生命保険相互会社及び被告大里勢津子の負担とし、原告、被告朝日生命保険相互会社及び被告大里勢津子に生じたその余の費用並びに被告株式会社富士銀行及び被告瀬間博一に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

(略称)以下においては、原告の妻柴とし子を「とし子」、被告朝日生命保険相互会社を「被告生命」、被告生命の外務員である被告大里勢津子を「被告大里」、被告株式会社富士銀行を「被告銀行」、被告銀行の社員である被告瀬間博一を「被告瀬間」、原告と被告生命との間で平成二年七月二〇日に締結された変額保険契約を「本件変額保険」、原告と被告銀行との間で平成二年七月二〇日に締結された包括的な金銭消費貸借契約(借り入れ枠金一億五〇〇〇万円)を「本件融資契約」、本件融資契約に基づく融資を「本件融資」、保険募集の取締に関する法律を「募取法」と略称する。

第一  請求

被告らは、原告に対し、各自金二三七四万九九一三円及びこれに対する本件訴状の送達の翌日から支払済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、被告銀行から借り入れた資金で保険料を一括して支払うことにより被告生命と本件変額保険を締結した原告が、被告銀行及び被告生命の従業員から違法な勧誘を受けたため本件変額保険を締結したこと等の違法事由を主張し、そのため原告が損害(払込保険料と解約返戻金額との差額金六二三万五一七〇円、被告銀行からの借入金利等一二〇四万七三四三円、借入実費六七万七四〇〇円、慰謝料二〇〇万円、弁護士費用二七九万円の合計二三七四万九九一三円)を被ったとして、不法行為に基づき、被告らに右損害の賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実

原告は、大正一五年一一月二八日生まれの男性であり、平成二年七月の本件変額保険締結当時六三歳であった。

被告大里は、本件変額保険締結当時、被告生命の外務員として生命保険募集人であり、被告瀬間は、被告銀行の従業員であった。

被告銀行と原告は、平成二年七月二〇日、本件融資契約を締結し、同月二三日、被告銀行はこれに基づき、原告に対し金九〇〇〇万円を貸し渡した(本件融資)。

原告と被告生命は、平成二年七月二〇日、次のとおり、本件変額保険を締結し、原告は、同月二三日、左の保険料を被告生命に支払った。

被保険者   原告

保険期間   終身

基本保険金額

一億四二三二万三二〇〇円

保険料    八〇〇〇万円

原告は、平成四年三月一〇日、本件変額保険を解約し、被告生命は原告に対し、解約返戻金として金七三七六万四八三〇円を支払った。

原告は、平成四年五月六日までに、被告銀行に対し、本件融資契約に基づく貸金残債務を弁済した。

二  争点

1  本件変額保険締結の際の被告大里及び被告瀬間の勧誘は必要な説明をなさず又は誤った情報、断定的判断を提供した違法な勧誘として不法行為にあたるものであるか。

2  本件融資に際して被告銀行に、融資相手である原告の返済能力などを調査した上で、融資を断念する義務、又は本件変額保険の死亡保険金が融資金額に満たなくなる可能性がある旨を原告に説明すべき義務があるか。

3  被告らの不法行為が認められる場合の不法行為と相当因果関係が認められる原告の損害の範囲

4  過失相殺の是非

三  争点に関する当事者の主張

(原告)

1 本件変額保険は本件融資と一体不可分なものとして考察されるべきものであり、その上で、本件のような銀行借入で保険料を一括して払う変額保険は相続税対策効果がある場合が極めて少なく、かつ、契約者が大きな損害を被る危険性(リスク)の高い詐欺的・欺瞞的商品である。しかもその販売にあたっては被告生命と被告銀行が一体となってその社会的信用を利用しているという状況がある。

このような状況の下では、銀行借入で保険料を一括して払う変額保険を締結する際には、生命保険募集人には、通常の変額保険締結の際に募取法に基づき要求される説明義務(変額保険の仕組みとリスクの説明義務)に加えて、融資一体型に固有の説明義務が信義則上要求される。具体的には、被保険者が平均余命まで生きた場合の生命保険金と負債との関係、中途解約した場合の解約返戻金と負債との関係、運用実績が負債利率を下回り中途解約が必要になる場合がありその場合どのような損失が生じるか、相続税対策としてどのような効果があるか、を具体的な数値によるシュミレーションを使うなどしてわかりやすく説明する義務がある。本件で被告大里はこの説明義務を全く尽くさなかったものであるから、被告大里及びその使用者の被告生命には不法行為が成立する。

また、被告大里と被告瀬間は原告に対し、本件変額保険について、被告大里において「運用成績が九パーセントを下がることは絶対にない。」、被告瀬間において「融資の切れるころ、お宅にいくらか金がはいりますよ。」と誤った情報を提供して、勧誘を行った。これは断定的な判断の提供として違法な勧誘であり、被告大里、被告瀬間、被告生命及び被告瀬間の使用者の被告銀行には不法行為が成立する。

2 本件融資は極めて反社会的性格を有する本件変額保険に対しなされたものであり、それ自体違法である。仮に違法とまではいえなくても、被告銀行の原告に対する本件変額保険への融資は保険料分及びその利息相当分をすべて融資し、その借入金の返済原資に変額保険の保険金をあてるという特殊な融資であるから、被告銀行としては融資対象たる変額保険の内容を調査し、返済計画や返済能力を検討して、本件変額保険のように返済額が保険金を上回る可能性が高い場合には借入人保護の見地から融資を断念する義務、又は右調査の結果及び右可能性について借入人である原告に説明する義務がある。被告銀行は必要な調査、検討をせず、借入人に不動産担保があるという理由のみで漫然と融資を実行し、原告に対して右に述べた説明もしていないものであり、不法行為が成立する。

3 本件変額保険を解約せずに原告の死亡時まで本件変額保険を継続することは損失の拡大をいたずらに招くのみであり、平成四年三月当時の株価等の下落状況に照らすと、原告による同年三月一〇日の中途解約は妥当である。したがって、原告が本件変額保険を解約したことをもって被告大里の勧誘行為と払込保険料から解約返戻金を控除した差額との間に因果関係がないと解すべきではない。

また、本件融資と本件変額保険は一体の関係にたち、保険加入の前提として払込保険料を融資でまかなうという認識が原告及び被告らに存在するから、原告の支払った利息及び融資に伴う抵当権設定登記費用などの借入実費も被告らの不法行為と相当因果関係がある損害である。

4 本件変額保険は金融の専門家であり、免許を有する被告らが十分な危険告知も行わずに一般人たる原告に損害を与えたものであるから、過失相殺はすべきではない。

(被告生命及び被告大里)

1 本件変額保険締結の際の説明義務に関する原告の主張は争う。

被告大里は、本件変額保険締結に先立って、死亡保険金額及び解約返戻金額が変動すること等の募取法上要求される説明義務の内容がすべて書かれたパンフレット及び設計書を原告に渡したうえで、口頭でも説明したものであり、説明義務を尽くしている。また、被告大里は、運用成績が九パーセントを下がることはないと説明したこともない。

2 原告が本件変額保険に加入したのは、原告死亡時に支払われる死亡保険金を受け取ることが目的であったにもかかわらず、原告は自ら変額保険を解約することで原告死亡時に保証されている基本保険金を受け取れる可能性を断ったのであるから、解約返戻金と払込保険料との差額は、初期の目的に反して原告が解約したことにより自らが招いた損害であり、被告大里の勧誘行為との間に因果関係はない。

また、本件変額保険と本件融資は別個の契約であり、本件変額保険料の資金調達は原告の任意にまかされていたのだから、本件融資に伴う利息及び登記等の費用と被告大里の勧誘行為との間に因果関係はない。

3 仮に、被告大里の勧誘行為が不法行為と認められる場合であっても、本件変額保険加入の意思決定をしたのは原告であり、少なくとも被告大里から交付されたパンフレット及び本件変額保険の設計書に記載されている変額保険の本質であるハイリスク・ハイリターンの特質について理解したうえで、意思決定したのであるから、原告にも相当の過失があり過失相殺すべきである。

(被告銀行及び被告瀬間)

1 被告瀬間が原告に誤った情報を与えて本件変額保険の勧誘をしたとの点は否認する。

2 本件融資が違法であること、融資断念義務及び説明義務に関する原告の主張は争う。

第三  争点に対する判断

一  (変額保険の内容、発売の経緯等)

甲二、二五から三三まで、三八、三九、乙二、五から七まで及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

変額保険は、我が国においては、昭和六一年七月に大蔵省により認可され、同年一〇月から発売が開始されたものであり、保険会社が保険契約者から払い込まれる保険料中、一般勘定に繰り入れる部分を除いた積立金を特別勘定として独立に管理し、主に株式や債券などの有価証券に投資し、その運用成果に応じて保険金額及び解約返戻金額が変動する仕組みの生命保険である。従来の定額保険においては安全性重視の運用を行い、一定額の保険金額、解約返戻金額が保証されており、資産運用の変動によるリスクを保険会社が負っているのに対し、変額保険は特別勘定の運用実績により高い収益が期待できる反面、株価や為替などの変動によるリスクを加入者が負うことが特徴である。但し、死亡・高度障害保険金額については、最低保証が設けられており、基本保険金額と呼ばれている。

変額保険は、本来、インフレによる保険金額の実質的目減りを避けることができる点に利点があるが、我が国においては、いわゆるバブル経済期に株価等が急騰したことを背景にその高収益性(利殖商品としての機能)が重視され、さらに不動産の価格が急騰したことなどから、保険料の一括払込について銀行融資を受けて変額保険に加入することにより土地所有者の相続税対策(相続税支払資金の捻出、債務負担により相続財産の評価を下げることによる節税等)になることを目的として契約する例が多くみられた。

二  (本件の契約に至る経緯)

甲一から八まで、一二、一三、三四から三六まで、乙一の一から三まで、二、四、丙一から一一まで、証人とし子、原告本人、被告大里本人及び被告瀬間本人によると以下の事実が認められる。

1  とし子は、平成二年四月一七日(以下特にことわらない限り全て平成二年をいう。)、テレビ朝日の番組を見ていたところ、同番組は土地所有者の相続税対策として土地を担保とした銀行借入による変額保険加入が有効であることを紹介していた。当時原告方付近の地価がバブル経済期による地価急上昇に加え区画整理により高騰する恐れがあり、とし子はかねてから原告死亡時の相続税の支払いにつき強い不安を抱いていたことから、変額保険に強い関心をもち、被告生命の駒込営業所所属で毎月、保険料の集金のために原告方に出入りしていた被告大里に電話をして、銀行借入により保険料を一括支払いする変額保険が被告生命の商品にあるのか否か、あるならばその内容について知りたい旨伝えた。四月下旬被告大里はこれに応じて原告方を訪れ、被告生命作成の変額保険についてのパンフレット(乙二と同一形式のもの)をとし子に交付し、同時にこのパンフレットを使って本件変額保険は払込保険料を被告生命が株式等に運用してその実績によって保険金額及び解約返戻金が上下するという簡単な説明と原告方の近所に被告生命の変額保険に加入した人がいることを述べた。そこで、とし子は被告大里に、原告の条件に合わせた変額保険の設計を依頼した。

2  五月、被告大里は変額保険についての設計書(甲二と同一形式のもの)を作成し、原告方を訪問して、これをとし子に交付した。同じ頃、被告大里は、とし子に求められて被告生命の変額保険の運用実績が記載された日経マネーの記事(当時の被告生命における加入後一年以上を経過した変額保険の特別勘定の運用実績は一一パーセント以上であった。)を取り寄せ、とし子に右記事を見せた。このような経緯の中で被告大里は、本件変額保険契約締結に至るまでの間に、複数回に渡って、被告生命の変額保険の将来の運用成績は九パーセントを下回ることはないという趣旨のことを強調した。

3  六月一二日、被告大里は原告方に本件変額保険の申込書(乙一の一)を持参し、原告に右申込書に署名捺印を求めたところ、原告自身は当初は契約加入には消極的であったものの結局は承諾し、とし子が右申込書の被保険者及び保険者契約者欄に原告名義で、保険金受取人欄に自己名義で署名捺印した。その際、とし子は保険料支払のための融資を行う金融機関を紹介してくれるよう被告大里に依頼した。また、被告大里は、変額保険の加入のために必要な健康診断(心電図検査など)について説明し、原告と協議の上、その日程を同月一九日に決定した(実際の実施日は同月二二日)。

4  同月中旬、本件変額保険の保険料支払のための融資につき、被告大里と訴外第一勧業銀行駒込支店の融資課課長代理の中嶋秀千代が原告方を訪問し、融資の条件、担保などについて相談した。

5  同月二二日、医師による原告の健康診断が行われ、健康面での問題は認められなかった。

6  同月下旬、前記中嶋から原告に対する融資を実行できない旨の連絡が被告大里にあり、被告大里はこの旨を原告に伝えた。被告大里は別の融資先を探すこととなり、被告生命本郷営業所所長の内山の紹介で被告銀行本郷支店に融資を依頼した。

7  七月二日、本件融資の件で被告大里が右本郷支店の行員である被告瀬間を伴って原告方を訪れた。原告及びとし子から被告瀬間に対して相続税対策のために被告生命の本件変額保険に加入するので融資を受けたい旨の申し出があり、これに対して、被告瀬間は、本件融資が利息分まで融資する形態であり、しかも原告の税申告上の年収が低いことから、本件融資を実行できるか否か検討するため原告所有の不動産(東京都文京区千石二丁目七〇番一四所在の宅地193.71平方メートル及び同地上の三階建の建物)につき担保権設定のための調査が必要である旨説明し、原告も了承した。

8  七月四日、被告瀬間は右担保調査を被告銀行の融資業務管理センターに依頼し、同月一二日、調査が行われ、本件不動産の時価は合計で六億〇九〇〇万円と査定され、その結果、本件融資は可能と判断されてその旨が原告及び被告大里に連絡された。

9  同月一九日、被告瀬間が原告方を訪れ、原告は被告銀行に本件融資契約の申込をした。被告瀬間から銀行取引約定書(丙一)、保証書(丙二)、Fライン契約書(丙三)など書類一式が原告に交付され、原告が署名捺印(ただし丙九の署名は同席していたとし子によるもの)した上で、原告から被告瀬間に印鑑登録証明書(丙四)、普通預金申込書(丙九)が提出された(銀行取引約定及び本件融資契約は同月二〇日付で成立した。)。

10  同月二〇日、被告大里が原告方を訪れ、最終的に原告が保険料八〇〇〇万円の本件変額保険に加入することになった。この際、被告大里から原告及びとし子に対して本件変額保険の設計書(甲二)が交付された。被告大里は、この設計書を使って口頭で保険金額及び解約返戻金は運用実績次第で変動すること、基本保険金が約一億四〇〇〇万円であることと共に運用実績九パーセントの場合の保険金額及び解約返戻金の額が一〇年後にそれぞれ約二億一九六〇万円及び約一億五二五七万円になることを鉛筆で該当部分に下線や囲みをつけるなどして強調して説明した(別紙参照)。しかし、設計書の運用実績例のうち、4.5パーセント、〇パーセントの場合についてはあえて触れず、被告生命の運用実績が九パーセントを下回ることはないことを前提とする説明に終始した。

11  以上の1から10までの事実経緯の中での本件変額保険についての各当事者の対応を総括すると次のとおりである。

原告本人はもともと生命保険の加入については積極的ではなく、本件変額保険についても当初は加入に消極的だったが、妻のとし子の加入の意思が強く、もともと家計管理を全面的にとし子に任せていたこともあって、六月一二日には加入することに決めた。

とし子は四月一七日に前記のテレビ番組を見て以来、常に加入に積極的であった。とし子の加入に対する積極性は被告大里の前記2及び10の説明及び2の被告大里が紹介した日経マネーの記事によってさらに強まった。とし子が被告大里の被告生命の変額保険の運用は九パーセントを下回ることはない趣旨の説明を全面的に信じていたかは、とし子はそのように供述するが、とし子自身昭和三〇年ごろから株式投資の経験があり、かつ、変額保険の保険料が株式等を中心に運用されることを知っていたこと(とし子及び被告大里調書一五二ページでは否定しているが、同五九ページでは認めている。)、変額保険のしくみ自体の説明は前記のとおり受けていたと認められること等の事実からいって疑問が大きいものといわざるをえない。しかし、とし子が本件変額保険の運用成績について九パーセントを上回る可能性が高く見込めるものと考えたこと、そしてこのとし子の認識に対して被告大里の説明が影響力をもったこと、とし子のこのような加入への積極性及び変額保険についての認識が結局原告の本件変額保険加入の原因となったことはいずれも認めることができる。

被告大里は、とし子から変額保険加入の相談を受けて以来、熱心に加入を勧誘し、融資先の紹介もした。原告が本件変額保険に加入し、三年を継続した場合に被告大里が被告生命から支給される報酬は約一五〇万円に上る。

被告瀬間は、第一勧業銀行駒込支店が本件変額保険についでの原告に対する融資を拒絶した六月中旬以降、被告大里から原告に対する融資を依頼され、七月二日に初めて原告及びとし子と接触を持ったのであって、この時点では原告は既に変額保険加入の申込みをしていた。また、被告瀬間が原告及びとし子に対して七月二日以降本件変額保険への加入を勧めたという証拠はない(とし子及び原告はそのように供述するが採用できない。)。

12  原告本人、被告大里本人、証人とし子の供述、甲三四、三五、乙四には右1から11までの認定に反する部分があるがこれらはいずれも前掲各証拠に照らし採用することができない。原告及びとし子はその供述において一貫して変額保険に関するパンフレット及び甲二以外の設計書の交付や口頭での説明を否認している。しかし、原告及びとし子の供述のとおりとすると、原告及びとし子は変額保険に関するパンフレットや設計書等の書面を要求もせず、また、見ることもなく、平成二年六月一二日に変額保険(原告主張によると保険料八〇〇〇万円という多額のもの)の申込みをしたことになり、極めて不自然であること等からして右供述は採用できない。なお、被告大里は原告やとし子に将来の運用成績について九パーセント以下になることはないと供べたことはない旨供述しているが、本件変額保険締結時に交付した甲二(別紙)には試算表の九パーセントの場合の数値のみに鉛筆で丸がつけられていること、さらに甲二には保険金等の変動について説明した図(印刷されたもの)に被告大里が手書きで書き込んだ右上がりの直線が認められるが、これは解約返戻金がだんだん増加していく旨を原告に説明するのに使ったものと認められること、本件変額保険締結当時、被告大里自身が被告生命の過去の運用実績について一一パーセント以上と認識していたこと及び前掲各証拠に照らして被告大里の前記供述は採用できない。

三  (本件変額保険当時及びその前後の株価の動向、変額保険の運用実績)

1  昭和六二年一〇月二〇日に、前日のニューヨーク株式市場の暴落(いわゆるブラックマンデーの暴落)を受けて日経平均株価が下げ幅及び下落率ともに史上最大の下げとなった東京証券市場は、その翌日から一気に回復し、日本経済は大好況からいわゆるバブル経済にと爛熟し、株価は翌六三年一二月には日経平均(以下同じ)三万円台に乗せ、平成元年の大納会では三万八九一五円八七銭(現在までの史上最高値)となるなど株価はほぼ一本調子の右肩上がりの上昇を続けた。この間、大都市部を中心に地価も著しく暴騰した。

平成二年に入ると二月から四月にかけて株価は大幅に下げた(二月の最低値三万三三二一円八七銭、三月同二万九八四三円三四銭、四月同二万八〇〇二円〇七銭)後、五月、六月、七月はやや持ち直し気味に推移した(六月の最低値三万一一二四円一九銭)。

しかし同年八月以降一〇月にかけて再び暴落し(一〇月の最低値二万〇二二一円八六銭)、その後平成四年三月からはさらに大幅に値下がりした(平成四年八月の最低値一万四三〇九円一銭)。

右の推移を現時点で振り返ると平成二年は日本経済がバブル経済のピークから崩壊に向う転換期にあたった年であるということができる(勿論、平成二年六月の時点でバブル経済の崩壊、平成大不況の予測が可能だったという趣旨ではない)。

以上は公知の事実である。

2  生命保険会社各社の変額保険の特別勘定の運用実績も、運用の状況によって各社間に差異はあるものの、1の株価の動向に基本的に沿った動きをしている。各社は毎年の三月、六月、九月、一二月末の時点でその月から一年前及びそれ以前に加入した変額保険の運用実績を発表しているが、例えば原告による本件変額保険の加入の申し込みがなされた平成二年六月について、その末時点の数字を見ると、一年前の平成元年六月加入分の運用実績は被告生命はプラス10.4パーセントであるが、加入日が遅くなるにつれ成績が悪くなる傾向にあることが既に見られるし、同業他社の中には同じ加入月の比較で九パーセントを割り低迷しているものがあった(乙一〇)。その後の運用実績(一年前加入分について)を見ると被告生命の場合、他の日本の大手生命保険会社よりは良い数字であるものの、平成二年九月末時点でマイナス1.7パーセント、同年一二月末時点でマイナス4.7パーセントとさらに悪化した(乙一一、一二)。

四  (争点1から4までについての判断)

1  (争点1について)

(一) 原告は本件変額保険と本件融資は一体不可分のものとして考察されるべきであり、被告大里及び被告生命の負う説明義務も通常の変額保険の説明義務と異なると主張する。原告と被告生命との間で結ばれた生命保険契約及び原告と被告銀行との間で結ばれた消費貸借契約は互いに当事者、目的を別異にするものであるが、原告の主張は本件の事実関係の下では両者は社会経済上、一体不可分のものとして考察すべきであると主張するものであろう。

しかしながら、本件変額保険の保険料が本件融資による金員でまかなわれたことは前記認定のとおりであるが、被告生命と被告銀行に本件変額保険の販売につき業務堤携がなされているといった特段の事情があれば格別、そうでなければそのことから直ちに両者を一体の契約と見ることはできない。したがって原告の主張はこの点でその前提を欠くものであるが、さらに本件融資と組み合わせた変額保険が相続税対策として詐欺的商品であるとの主張について付言すると、特定の資産運用の方針が相続税対策として効果があるかどうかは、相続の時期、被相続人の資産の内容、家族構成、将来における不動産価格、有価証券価格及び金利の動向、相続税制のあり方等の諸要因によって変わってくるものである。銀行融資による保険料一括払いと組み合わされた変額保険の相続税対策としての有効性自体、平成二年七月当時においていずれとも断定できないものであったというべきであり、従ってそれが詐欺的、欺瞞的商品であるとする原告の主張は採用できない。

さらに原告は本件変額保険が相続税対策としてどのような効果があるかも説明義務に含まれると主張するが、ある特定の手段を取ることが特定人にとって相続税対策になるかどうかの正確な計算は、その者の資産の詳細、家族構成について把握した上、税務に関する正確な知識に基づいて初めてなしうる専門的判断であり、しかも、真に相続税対策として有効であったか否かは、その後の不動産評価の推移(これは不動産価格の動向と課税評価の政策の変化の両面にかかわるものである。)、金利の動向、本件の場合でいえば変額保険の特別勘定の運用実績等のいずれも容易に予測しがたい事項にかかるものである。自らの相続税対策をどう立てて行くかは自らの責任において(税理士等に相談し、あるいは各種の税務相談を利用すること等を含めて)調査、判断すべきものである。本件の場合原告は被告銀行あるいは被告生命との間で自己の資産運用についての助言、企画を依頼する委任契約を結んでいたわけではないし、特別にこれらを期待できる事情があったとも認められない。以上の点からいうと、本件の場合、原告の主張するような説明義務は認められないというほかはない。

(二) そこで以上を前提として変額保険自体についての説明義務違反の主張について検討する。

生命保険の募集は募取法の規制を受けるが、同法は「募集文書図画に将来における利益の配当又は剰余金の分配についての予想に関する事項を記載してはならない。」と規定し(一五条二項)、また、「保険契約者又は被保険者に対して、不実のことを告げ、若しくは保険契約の契約条項の一部につき比較した事項を告げ、又は保険契約の契約条項のうち重要な事項を告げない行為」、「保険契約者又は被保険者に対して特別の利益の提供を約し、又は保険料の割引、割戻その他特別の利益を提供する行為」を禁止し(一六条一項一号、四号)、右禁止の違反に対しては業務停止、登録取消等の行政処分をすることができると定める(二〇条一項)ほか、右で述べた禁止行為の違反者に対して一年以下の懲役又は一万円以下の罰金刑を定めている(二二条一項)。募取法は「生命保険募集人……の登録をなし、……募集を取り締り、もって保険契約者の利益を保護し、あわせて保険事業の健全な発達に資することを目的とする」もので(一条)、保険業者に対する取締法規の性格を有するものであるが、前記の禁止事項はいずれもその内容から直接保険契約者の利益を保護することを目的とした規定であることは明らかであるといえよう(一一条の保険会社の賠償責任の規定もこのことを裏付けるものである。)。ところで変額保険は、一で認定したとおり我が国において昭和六一年一〇月に初めて発売されたものであり、かつ、従来の定額保険とは異なり、資産運用の変動によるリスクを加入者が負う保険であることから、昭和六一年七月一〇日付で大蔵省の通達で(銀行局一九三三号)による行政指導がなされ、①将来の運用成績についての断定的判断の提供、②特別勘定の運用実績について、募集人が恣意的に過去の特定期間をとりあげ、それによって将来を予測する行為、③保険金額(死亡保険金の場合には最低保証を上回る金額)あるいは解約返戻金額を保証する行為を禁止行為として特に掲げている(争いがない。)。

一で認定した変額保険の内容、特質及び右に述べたところから、変額保険募集の際の生命保険募集人の加入者に対する説明義務の内容について検討する。募取法自体は取締法規であり、その違反が直ちに私法上の無効あるいは債務不履行、不法行為でいう違法との評価に結び付くものではないし、まして、大蔵省の通達に違反することが直ちに違法との評価を受けることがないことはいうまでもないところである。しかしながら、募取法一五条二項、一六条一項一号、四号の趣旨が前述したように保険契約者の利益の保護をも直接の目的としていると解せられること、従来、我が国においては生命保険としては定額保険のみが存在しており、従って国民も生命保険が安全性のある商品であるということに信頼をおいてきたこと、それゆえにこそ変額保険の販売開始に際して右のような大蔵省の行政指導が行われたという事実を考えると、変額保険を募集する生命保険募集人は変額保険の契約に加入しようとする者に対して、資産の運用の結果により保険金額、解約返戻金額が変動するものであり、終身保険の場合の基本保険金額を除いては最低保証されているものはないという変額保険の本質的要素を説明する法的義務が信義則上要求されており、これに違反してなした募集行為は、当該変額保険契約の結ばれた経緯、保険契約者の職業、年齢、財産状態、知識経験等の具体的状況の如何にもよるところであるが、原則として私法上も違法の評価を受けるというべきである。

本件においては、前記二の1、10で認定したところによると、被告大里は保険契約者であり被保険者である原告及び保険金受取人である原告の妻とし子に対して本件変額保険の概要の記載がある設計書やパンフレットを交付したうえ口頭でも一応変額保険の内容を説明しているところであり、右説明には前記の変額保険の本質的要素が含まれているから前記の述べた説明義務に沿った説明をしているということができる。したがってこの点についての原告の主張は採用できない。

(三) 次に被告大里が原告及びとし子に対して誤った情報を提供し、あるいは断定的な判断を提供したことの違法性を理由とする原告の主張について判断する。

本件においては被告大里が原告及びとし子に対して、被告生命の変額保険の将来の運用成績は九パーセントを下回ることはないという趣旨の説明をしたことは二の2及び10で認定したとおりである。

原告は被告大里の右の説明は誤った情報提供であり、かつ、四の1の(二)で認定した大蔵省の通達が禁止している将来の運用成績についての断定的判断の提供に該当するとして、私法上も違法であると主張する。本件における被告大里の右の説明(以下単に「大里説明」という。)は、被告生命の変額保険の将来の運用成績を九パーセントは下らないという点で確実なものとして予測したものということができる。勿論、その後における現実の運用は大里説明のとおりにならなかったわけでその点で事後的に見れば「誤っていた」ことはその通りであるが、大里説明が将来の出来事についての予測である以上は事後においてそのとおりにならなかったといって予測をした時点において誤っていたと評価することはできず、従って大里説明を募取法一六条一項一号の「不実の告知」の問題として考察するのは適当ではない。大里説明はむしろ断定的判断の提供の問題として扱うことが相当である。

ところで大里説明が「被告生命の変額保険の将来の運用成績が九パーセントを下回ることはない。」という趣旨のものである以上、まさにそれは大蔵省通達が禁止する「将来の運用成績についての断定的判断の提供」にあたるあるいはその疑いが強いものである点で大蔵省通達に違反する(疑いの強い)ものということができる。

しかしながら大蔵省通達に違反する行為だからといって直ちにその行為が損害賠償責任を生じさせるという意味で私法上違法であるということができないことは(二)でも述べたところである。断定的判断の提供は例えば証券取引法五〇条一項一号及び商品取引所法九四条一号で有価証券取引あるいは商品の先物取引の勧誘者に対して法律をもって禁じられている行為であるが、有価証券取引及び商品先物取引においても断定的判断の提供が直ちに私法上違法とされるわけではない。断定的判断の提供が私法上も違法と評価されるかを判断するにあたっては次に述べる点を検討することが必要であると考える。

①勧誘を受ける側(便宜上「買主」という。)の受け止め方がどうであったか、即ち勧誘者の断定的判断の提供によって買主側の取引に伴う危険性についての正しい認識の形成を妨げる可能性が強いようなものであったか、換言すると買主側の自己責任の原則の基盤そのものをなくしてしまうようなものであったか、あるいは、買主側は勧誘者の発言を単なる一つの判断(見方)の提供と受け止め、自己の判断形成の一材料にしたに過ぎないか。

右の点の判断については、勧誘者の買主に対する勧誘の内容そのもののほか、買主側の知識経験、職業、勧誘の対象となっている商品の種類如何が重要な要素となる。例えば、株式投資の豊富な経験を持つ買主に対して証券会社の外務員が特に具体的事実等を示さずに、「甲会社の株は近い内に必ず二倍に値上がりする」との勧誘をしたからといって、右の断定的判断あるいはその疑いの強い説明それ自体が右の買主に対する関係で違法と評価すべきとはいえないであろう。

②基本的には、右の①の点の判断によることになるが、事案によっては、断定的判断の内容となっている将来の出来事についての予測、見通しがその時点において合理性があったものといえるかという点も違法性の判断に影響を与える要素として考えられる。

(四) (三)で述べたことを前提に大里説明について検討すると、本件における勧誘の対象が変額保険という従来我が国ではなじみがなかった商品であること、生命保険が安全性のある商品であるという点に国民の信頼が寄せられていたこと、三で認定した本件変額保険当時及びその前後の株価の動向並びに変額保険の運用実績に照らすと大里説明は平成二年六月又は七月の時点における予測として合理性を有しているとはいえないと評価しうること(三で前述したように右平成二年六月又は七月の時点でバブル経済の崩壊を予測することが可能であったということでは勿論ないが、将来の右肩上がりの株価の上昇が今後も続くと断定的に予測できる状況ではなかったということはいえよう。)等の諸事実に照らすと、本件の大里説明に含まれる断定的判断の提供あるいはその疑いの強い行為は私法上も違法の評価を受けるべきものと考える。

もっとも本件では二の11で認定したとおり、買主側の事情として、とし子が株式投資の経験があり、かつ、変額保険の保険料が株式等を中心に運用されることは承知していたこと、さらに、原告及びとし子が変額保険のしくみ自体は説明を受けていたこと等からとし子が大里説明を全面的に信じていたとは認められない事案であるというべきであるが、とし子が本件変額保険の運用成績が九パーセントを上回る可能性が高く見込めるものと考え、このとし子の認識に対して大里説明が影響力をもったことは前記認定のとおりであるから、右の諸事情は後記の原告に対する過失相殺の事情として考えることが相当である。

(五) また、原告は、被告瀬間が原告に対して本件変額保険に加入すると融資が切れるころ現金が原告に入るなど虚偽の説明をして被告大里と一体となって本件変額保険の勧誘をした旨主張する。

しかし二(ことにその11)で認定したとおりの本件の事実関係の下では、原告主張の右事実は認められない。

2  (争点2について)

変額保険は、一で述べたように、インフレによる保険金額の実質的目減りを避けること等を本来の目的とし、大蔵省の認可を受けて販売されているものであり、それ自体が反社会的であるということは到底できない。また、被告銀行に原告主張のような融資を断念すべき義務あるいは変額保険の危険性について原告に説明すべき義務を認める法律上の根拠はないことはいうまでもないので原告の主張は失当である。もっとも、原告の所有する不動産の担保価値のみを結局は重視したとしかいえないような変額保険の一括払込保険料に対する融資が銀行の健全な融資の姿勢によるものといえるかは甚だ疑問というしかないが、そのことと被告銀行の法的責任の問題は別であるというほかない。

(1、2のまとめ)

以上によれば、被告大里は原告に対して違法な募集行為をしたものであり、被告大里及びその使用者の被告生命は原告に対し損害を賠償する責任がある。一方、被告銀行及び被告瀬間にはその責任がないということができる。そこで以下、被告生命と被告大里が責任を負うべき賠償額の範囲について検討する。

3  (争点3について)

甲一、二、六から一〇まで、一一の一から五まで、三四、三五及び前記争いのない事実によれば、原告は、本件変額保険への加入により、次のとおり合計一八九五万九九一三円の損害を被ったことが認められる。

払込保険料(八〇〇〇万円)と解約返戻金(七三七六万四八三〇円)の差額

六二三万五一七〇円

銀行融資に伴う利息及び手数料

一二〇四万七三四三円

銀行融資を受けるための抵当権設定登記手続費用(登録免許税六〇万円、司法書士手数料等五万一二〇〇円)及び同抹消手続費用(登録免許税二〇〇〇円、司法書士手数料等二万四二〇〇円)

計六七万七四〇〇円

解約返戻金と払込保険料との差額は、原告が自ら解約したことによる損害であって、被告大里の勧誘行為と因果関係がないとの被告生命及び被告大里の主張について判断すると、原告が本件変額保険を解約した平成四年三月一〇日当時の運用実績及び市場の動向からすると、この時期に解約をしなければ原告の損害がさらに拡大するおそれも十分あったものであるから、この時点で原告が本件変額保険を解約したうえでの差額を損害と主張することは合理性があるものと認められる。そうだとすると、被告大里の勧誘行為と払込保険料と解約返戻金との差額分の損害との間には相当因果関係があると解すべきである。

また、本件融資にともなう利息および抵当権設定登記等にかかった借入費用は本件変額保険加入による損害とはいえないという被告生命及び被告大里の主張についていうと、確かに保険料支払のための金員の調達は本来保険加入者において行うべきものであるから、保険料支払のために銀行融資を受けたとしても融資に伴う利息及び抵当権設定登記等にかかった借入費用は本件変額保険から通常生ずべき損害ということはできない。しかし、本件においては、二で認定したとおり、当初から銀行融資によって保険料を支払うことが原告ら及び被告大里の間で前提とされていたばかりでなく、むしろその方法によることが相続税対策にもなるということが原告ら及び被告大里の共通の理解であったこと、また、被告大里は本件変額保険の保険料にあてるために原告が被告銀行から融資を受けられるよう積極的に働きかけたものであることから、融資に伴う利息及び借入実費の発生は被告大里において当然認識していたところであり、このような事情の下では原告の右損害と被告大里の違法な勧誘行為との間には相当因果関係があると解するのが相当である。

なお、原告は慰謝料として金二〇〇万円の支払いを請求しているが、金銭的な損害については金銭賠償によって償われるのが原則であり、本件においてそれ以上に慰謝料を認める特別の事情があるということはできない。

4  (争点4について)

証人とし子及び原告本人によれば、原告の資産運用は専らとし子が行い、とし子は昭和三〇年ころから株式で資産を運用してきた経験を有しており、そのリスクについても十分認識していたものと認められるところ、被告大里がとし子らに渡したパンフレット及び設計書には、変額保険は株式などの有価証券を主体とした運用を行うものであり、株価の低下等による投資リスクを負う旨明記されていること、とし子は変額保険が株を運用するものであることを知っていたこと、とし子は変額保険のしくみの本質的な点(特別勘定の運用実績により死亡保険金額や解約返戻金額が変動すること等)については、被告大里の口頭での説明及びパンフレットや説明等の書面で理解していたことが認められる。したがって、右事実にもかかわらず、本件変額保険を締結するにあたって、軽々に被告生命の一外務員である被告大里の口頭での将来の運用成績に関する説明を信じた原告側の過失(本件においてはとし子の過失も原告側の過失として評価されるべきである。)は大きいというべきである。また、本件においては右に述べたことに加え、本件変額保険成立の日から解約するまでの期間(平成二年八月一日から平成四年三月一〇日まで)に原告が死亡した場合には少なくとも一億四二三二万三二〇〇円の死亡保険金を受け取れる地位にあったという意味で生命保険の本質的な点での利益を受けていたといういわば損益相殺的な要素も考慮すると、原告に生じた損害額のうち八割は原告が自ら負担すべきものであり、二割を被告生命及び被告大里に負担させるのが相当である。

3で認定した原告の損害合計一八九五万九九一三円に二割を乗じると三七九万一九八二円であるから、原告はこの限度で被告生命及び被告大里に対し賠償を求めることができる。

そして、原告が本件訴訟の提起、追行を弁護士に委任したことは記録上明らかであるところ、事案の内容、審理の経過等を考慮すると、原告が被告生命及び被告大里に対して請求しうる弁護士費用として、右金額の一〇パーセントに相当する金額(金三七万九一九八円)とすることが相当であるから、右金額を加算して、原告は被告生命及び被告大里に対し、各自金四一七万一一八〇円の限度(不真正連帯債務)で損害賠償請求権を有することになる。

四  以上のとおり、原告の請求は被告生命及び被告大里に対し、各自金四一七万一一八〇円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成五年八月一〇日から支払済まで年五分の割合による金員の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容することとし、被告生命及び被告大里に対するその余の請求並びに被告銀行及び被告瀬間に対する請求は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官菅原雄二 裁判官野村高弘 裁判官朝倉佳秀)

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